自転車で車道の端を走っていると、後ろから来た車にギリギリの距離で追い越されて、ヒヤッとした経験がある人は多いはずです。「これって違反じゃないの?」「1.5m空けないといけないはずでは」とSNSで見かけた情報を思い出す人もいるでしょう。
実は「1.5m」という数字、法律の条文には一度も出てきません。2026年4月の改正道路交通法で新設されたルールは、具体的な距離ではなく「安全な速度」を基準にしたものです。この違いを知らないまま「1.5m神話」を信じていると、実際のトラブル時に誤った主張をしてしまう可能性もあります。
この記事では、改正で実際に何が変わったのか、黄色いセンターラインを越えて追い越すことの是非、そして自転車自身が前の自転車や車を追い越す場合の判断基準まで、具体的な条文や警察庁の見解をもとに整理していきます。
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自転車を追い越すときの法律ルールと「1.5m」の真実
まずは2026年4月の法改正で何が変わったのか、そして広まっている「1.5m」という数字の実態から確認していきます。
2026年4月の改正で追い越しルールが初めて明文化された
自動車が自転車を追い越す際のルールは、2026年4月の改正道路交通法で初めて条文に明記されました。
それまでの道路交通法には、自動車が自転車の横を通過する際にどれくらいの間隔を取るべきかという具体的な規定がありませんでした。追い越し・追い抜きに関する一般的な規定はあったものの、対自転車という観点での明文化はされていなかったのです。
今回の改正では、新設された第18条第3項において「十分な間隔がないときは、当該自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない」という趣旨の規定が加えられました。これは、自転車のすぐ横を高速のまま通過する行為に法的な歯止めをかける狙いがあります。実際、警察庁がこの改正に踏み切った背景には、自転車と自動車の接触事故やヒヤリハット報告の増加があるとされています。
この改正によって、これまで「マナー」として語られてきた追い越し時の配慮が、初めて法律上の義務として位置づけられたことになります。
「1.5m」は法律の数値ではなく国会答弁の目安
ネット上で広まっている「1.5m空けないと違反」という情報は、実は法律の条文そのものではありません。
改正道路交通法の条文には、具体的な距離の数値は一切記載されていません。「1.5m」という数字の出どころは、法改正の審議過程における警察庁の国会答弁であり、都市部の一般的な幹線道路を想定した際の目安として言及されたものです。しかも実際の答弁では「1メートル程度」という表現が使われた場面もあり、報道やSNSを経由する中で「1.5m」という数字が独り歩きしてしまった経緯があります。
この違いは実務上とても重要です。もし「1.5m未満だから即違反」という理解のまま運転していると、実際に問われる基準(安全な速度に減速したかどうか)とはズレた主張をしてしまうことになります。逆に、間隔が多少狭くても、きちんと減速して自転車の動きに対応できる速度まで落としていれば、それ自体は違反にならないという理解のほうが、条文の趣旨に近いといえます。
数値基準がないことは「何をしてもいい」という意味ではない
数値の基準がないからといって、間隔を詰めて通過してよいわけではありません。あくまで「安全な速度まで減速する」ことが法律上の義務であり、間隔の狭さと速度の高さが組み合わさった危険な追い越しは、状況に応じて違反と判断される可能性があります。数字にとらわれるより、自転車がふらついても対応できる速度かどうかを基準に考えるのが実態に近い理解です。
法律が本当に求めているのは「安全な速度」への減速
改正道路交通法が求めているのは、固定された距離の確保ではなく、状況に応じた速度調整です。
条文の構造をあらためて整理すると、「十分な間隔が取れるなら通常の速度で通過してよい」「十分な間隔が取れないなら、その間隔に応じた安全な速度まで落とす」という二段階の考え方になっています。つまり道幅が狭く自転車ギリギリでしか通過できない状況では、大きく減速することが前提として求められているということです。
これは自動車教習所で習う「側方間隔」の考え方とも共通しています。もともと運転免許の教習では、自転車の横を通過する際は徐行に近い速度まで落とすよう指導されており、今回の改正はその教習内容を法律として明文化したものと捉えることもできます。実務上は、住宅街の生活道路や、駐車車両で片側が塞がれている区間など、十分な間隔が取れない場面のほうが多いため、多くのドライバーにとって「基本は減速」という意識が求められる改正だといえます。
自転車側から見ても、後続車が減速せず接近してくる状況は法律上問題がある可能性が高いという理解を持っておくと、危険を感じたときの判断材料になります。
十分な間隔がとれない道路の具体例
「十分な間隔が取れない道路」とは、具体的にどのような状況を指すのか、実例で見ていきます。
典型的なのは、センターラインのない片側一車線の生活道路で、対向車も来ているようなケースです。この場合、自動車が自転車を追い越すために反対車線側へ大きくはみ出すことができず、結果的に自転車のすぐ横を通らざるを得なくなります。ほかにも、路上駐車の車両が連続している区間、工事や商店の荷下ろしで車線の一部が塞がれている区間なども、十分な間隔を確保しにくい典型例です。
こうした場面では、自動車側は自転車の後ろで一時的に速度を合わせて追従し、間隔が取れる場所まで待ってから追い越すという判断が、法律の趣旨に沿った対応になります。自転車側としても、こうした狭い区間ではなるべく道路の端に寄りすぎず、後続車から見て動きが予測しやすい走行ラインを保つことが、結果的にお互いの安全につながります。自転車が守るべき速度・徐行の基本的な考え方は、以下の記事でも詳しく解説しています。
自転車 速度 制限は徐行必須|何kmから違反かすぐわかる 自転車の速度制限や徐行の基準、歩道での適正速度について具体的に解説した記事です。
自転車同士・原付が自転車を追い越すときも同じルールか
今回の改正が主に想定しているのは自動車や原付が自転車を追い越す場面ですが、自転車同士の追い越しにも安全上の配慮は必要です。
条文上、第18条第3項が想定しているのは自動車等が自転車・特定小型原動機付自転車を追い越す場面が中心であり、自転車同士の追い越しを直接規定したものではありません。ただし、自転車同士であっても、狭い間隔で高速に追い越せば接触や転倒のリスクがある点は変わらず、一般的な安全運転義務の範囲で配慮が求められます。
特に近年増えている電動アシスト自転車やスポーツバイクは、一般的な自転車より速度域が高くなりやすいため、追い越す側の責任がより重くなる場面もあります。追い越す際は、ベルやひと声で存在を知らせてから、十分な間隔を取って通過するという基本的なマナーを守ることが、法律上の明文規定の有無にかかわらず推奨されます。
追い越される側の自転車がとるべき安全な走り方
追い越しのルールは自動車側の義務が中心ですが、追い越される自転車側の走り方次第でも、リスクは大きく変わります。
道路の端に寄りすぎると、路肩の段差やグレーチング、路面の悪さで急にふらつき、追い越し中の車と接触するリスクが高まります。逆に車道の中央に寄りすぎても、後続車のいらだちを招き、無理な追い越しを誘発しかねません。目安としては、路肩から30センチから1メートル程度の余裕を保ちつつ、まっすぐ安定した走行ラインを維持することが推奨されています。
後方の車の接近に気づいたら、無理に速度を上げたり急に進路を変えたりせず、一定のペースを保つことが、ドライバー側が減速・追い越しの判断をしやすくすることにつながります。自転車用のリアミラーやレーダー機能付きライトを使えば、後方の車の接近を早めに察知でき、心の準備をした上で走行ラインを保ちやすくなります。
黄色線・白線での追い越しは違反になる?判断基準を解説
ここからは、センターラインの種類によって追い越しの可否がどう変わるのか、具体的な判断基準を見ていきます。
黄色いセンターラインを越えた瞬間に通行区分違反になる
黄色い実線のセンターラインがある区間では、これを越えて対向車線側にはみ出した時点で通行区分違反となります。
黄色いセンターラインは「追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止」を示す道路標示であり、見通しの悪いカーブや坂道など、対向車との衝突リスクが高い区間に設置されています。この規定は自動車だけでなく自転車にも適用されるため、「自転車なら軽車両だからはみ出してもよい」という理解は誤りです。線を越えた瞬間に違反が成立するという点は、追い越す対象が自転車であっても変わりません。
つまり、黄色線の区間で前を走る自転車がいて、対向車線側にはみ出さなければ追い越せない状況であれば、法律上は追い越しを諦めて減速走行に切り替えるのが正しい対応ということになります。
白線(破線)区間なら追い越しが認められる条件
センターラインが白の破線になっている区間では、安全が確認できることを条件に、はみ出しての追い越しが認められています。
破線は「はみ出し通行禁止」の対象外であるため、対向車の有無や見通しの良さを確認した上であれば、法律上は追い越し自体が可能です。ただし、これはあくまで「はみ出し自体は禁止されていない」というだけであり、対自転車の場面では前述の第18条第3項(十分な間隔・安全な速度)の義務が別途かかってくる点に注意が必要です。
つまり白線区間であっても、はみ出して大きく回り込むだけでなく、自転車との間隔を十分に取り、必要なら速度を落とした上で通過するという二重の配慮が求められます。「白線だから自由に追い越してよい」という単純な理解ではなく、「はみ出し自体は問題ないが、自転車への配慮義務は別に存在する」と捉えるのが正確です。
自転車自身が前の自転車を追い越す場合の判断基準
自転車同士の追い越しでは、はみ出し禁止のセンターライン規定は直接関係しませんが、車道と歩道の区分や対向自転車への配慮が判断の中心になります。
自転車が車道の左側を走行している場合、前の自転車を追い越す際は、右側から回り込む形になります。このとき対向車線に自動車が来ていないか、後方から自動車が接近していないかを確認しないまま追い越すと、結果的に自動車との接触リスクを自ら高めてしまいます。歩道を走行している場合は、歩行者优先の原則があるため、歩行者や他の自転車を追い越す際はより慎重な速度調整が必要です。
目安としては、追い越す前に十分な後方確認を行い、相手との間隔を確保できると判断できたときだけ追い越しに入るという、自動車の追い越しと同じ考え方を自転車同士にも当てはめるのが安全です。
黄色線区間で無理に追い越された・した場合の対処法
黄色線区間で無理な追い越しをされて危険を感じた場合、その場でできることは限られますが、後からの対応は可能です。
走行中にできるのは、無理に反応せず速度と進路を保ち、状況が落ち着くのを待つことです。急ハンドルや急ブレーキで反応すると、かえって転倒や別の事故につながるリスクが高まります。危険な追い越しをされたと感じた場合は、可能であればナンバーや車種の特徴を記憶しておき、必要に応じて後日警察に相談するという選択肢があります。
逆に、自分が追い越す側で「黄色線だと気づかずにはみ出してしまった」という場合は、次回以降センターラインの色を意識する習慣をつけることが再発防止につながります。見通しの悪い区間では、そもそも追い越しを急がず、安全な直線区間まで待つという判断が、結果的にもっとも確実な対処法です。
ドライブレコーダーが違反証明に役立つ理由
危険な追い越しをされた・したという状況を客観的に証明する手段として、ドライブレコーダーや自転車用リアカメラの映像は大きな役割を果たします。
「安全な速度だったかどうか」「十分な間隔があったかどうか」は、当事者の主観だけでは水掛け論になりやすいポイントです。映像記録があれば、追い越し時の速度感や間隔、センターラインの位置関係を客観的に確認でき、万が一のトラブルや保険の交渉においても有力な証拠になります。
自動車用のドライブレコーダーと同様に、近年は自転車のサドル下やシートポストに取り付けられる小型のリアカメラも増えており、後方からの接近や追い越しの様子を記録できます。事故には至らなかったヒヤリハットの記録が、結果的に周辺道路の危険箇所の把握や、今後の走行ルート選びの参考になることもあります。
追い越し関連の違反も青切符の対象になる
2026年4月から始まった自転車の青切符制度では、追い越しに関連する違反も対象に含まれています。
自転車自身が黄色線をはみ出して無理な追い越しを行った場合、通行区分違反として青切符の対象になり得ます。これは手信号や信号無視などと並ぶ、明確に定義された違反行為だからです。一方で、自動車が第18条第3項の安全な速度義務に違反した場合は、自動車側の交通違反として扱われ、こちらも取り締まりの対象になります。
つまり追い越しに関するルールは、自動車側・自転車側のどちらにも義務が課されている領域であり、「自分は自転車だから関係ない」と考えるのは誤りです。前の自転車や車を追い越す際は、自分自身も違反の当事者になり得るという意識を持っておく必要があります。
今日からできる安全な追い越され方・追い越し方チェックリスト
ここまでの内容を、実際の走行時にすぐ使えるチェックリストとして整理しておきます。
- ☑ 「1.5m」は法律の数値ではなく、実際の基準は「安全な速度」であると理解している
- ☑ 黄色いセンターラインの区間でははみ出しての追い越しをしない・されない前提で走る
- ☑ 白線区間でも間隔と速度への配慮は別途必要だと理解している
- ☑ 路肩に寄りすぎず、予測しやすい安定した走行ラインを保っている
- ☑ 危険な追い越しをされたときは急な反応を避け、状況が落ち着くのを待っている
- ☑ 自転車同士を追い越す際も、後方確認と間隔の確保を徹底している
数字の目安に頼りすぎず、状況に応じた速度と間隔を意識することが、追い越す側にも追い越される側にも求められる基本姿勢です。
この記事の結論
「追い越しは1.5m空ける」という理解は正確ではなく、法律が実際に求めているのは状況に応じた安全な速度への減速です。黄色線区間でのはみ出しは自転車であっても違反になり得るため、数字にとらわれず、間隔が取れない場面では減速して待つという判断を基本にすることが、事故と違反の両方を避ける近道になります。
制度や条文の解釈、各都道府県の運用は今後変わる可能性があります。正確な情報は警察庁や都道府県警の公式サイトをご確認ください。 また、実際に事故やトラブルに巻き込まれた場合の対応に不安があるときは、最終的な判断は専門家にご相談ください。





